空を越えて、
ザワザワ、ザワザワ。
ロビーに「音」がこだまする。
聞きなれない言葉、なんの会話をしてるのかな。
大きなキャリーケース、何が入っているんだろう。
行き交う、いろんな目の色、髪の色、肌の色。
わたしは、今日、関西国際空港に行って来た。
弟が、1ヶ月海外に行くためだ。
中東情勢を研究している彼は、ヨルダンとトルコに行くらしい。
少し、彼のことを話そうか。
彼の名前は「響」。
音楽が好きな父と母がつけた、わたしたちの名前は、奏と響で、音楽に由来する。
2つ下の弟は、高校時代に英語ディベートに出会った。
英語で意見を述べること、社会に目を向けること、世界がどんどん広がること。
彼は、世界に恋をした。
「俺、アラビア語を勉強したいねん」
そう言いだしたのは、確か高校2年生のとき。
中東って危ないイメージがあるからだろう、
お母さんが響はいつか海外で死ぬんじゃないかって心配してた。
アラビア語ってミミズみたい。
中東って大変そう。
そんな曖昧なことしか知らないわたしは、
彼がどれほど「アラビア」の世界に恋をしていたのか、そこまで知ることはなかった。
「次の方、こちらのカウンターにどうぞ。」
ヨルダンの方に向かう空港カウンターに二人で並び、
大きなスーツケースを2つ預ける。
赤いリップの似合う女性が返却したパスポートには、
彼の恋する場所に行ける、魔法のチケットが挟んであった。
目をキラッキラさせながら、手に取る彼。
興奮と感動と、少しの緊張。
そして、まっすぐに前を見つめる目。
ずっとずっと学びたいことがあって、
心から行きたい場所があって、
そのために、努力を惜しまず勉強して、
自分の力で勝ち取る。
彼の、まっすぐで、強い、熱い想いがそこにはあった。
なんて、たくましくて、凛々しくて、勇ましくて、魅力的なんだろう。
弟に、響に、はじめて、ここまで強い「憧れ」と「敬意」を持った。
そして、めっちゃ応援したいと思った。
「いってらっしゃい、気をつけてな。」
「そっちこそ、気をつけーや。いってきます」
もう一生会えないとか、そんなことじゃないし、1ヶ月後には、また会えるけど。
でも、これが最後であってもいいように、
あの時、ああしてればって思わなくてもいいように。
わたしは、笑顔で手を振った。
お互い、好きな場所で、思いっきり弾けようぜ。
自分らしく、行きていこうな。
わたしと、彼との、二人の約束。
きっと、いや、絶対、守りきる。
だって、わたしたちは、自分の人生を奏で、自分の人生を響かせるために、生まれてきたのだから。